今宵も、月と踊る
第二章:カグヤ
“何か”が私を追ってくる。
そんな気がして闇の中をひたすら駆け抜ける。
走るのは得意だった。
誰よりも早く走れると自負していたのはずっと前のことだったが、現役を退いた今だって同世代の人には負けない。
“何か”に囚われてしまったら、私はどうなってしまうのだろう。
恐ろしくてたまらない。
決して後ろを振り返ってはいけない。
“何か”の正体を知ってしまったが最後、きっと私は走れなくなる。
(誰か助けて)
段々、足が動かなくなってきた。息が上がりそうになっている。
速度が落ちてきて、するすると“何か”が足に纏わりついていく。
悲鳴を上げそうになった時。
……一筋の光が見えた。