今宵も、月と踊る
「起きたか?」
突然、枕の後ろから労わるような静かな声がして、首をそちらに傾ける。
「あんたは観客席で倒れたんだ。覚えているか?」
私は布団から慌てて身を起こした。窓から外の様子を窺えば、もうすっかり日が暮れていた。
(思い出した……!!)
そう、私は舞を見ている最中に倒れた。誰かの声に誘われるように地面に崩れ落ちたのだ。
あの時、舞台に立っていたのは……。
「ここは神社の事務所だ。あんたは3時間近く眠っていたんだ」
声を掛けてきた男性は膝の上で開いていた読みかけの本を閉じると、私の額にかかっていた髪を払った。
……先日と同じ、幼さを含ませた美しい顔に仄かな笑みを浮かべながら。
催しは既に終了したのか、彼の装いは衣冠からジーンズ姿に変わっていた。
それでも、浮世離れした雰囲気は隠せない。