今宵も、月と踊る
「そう言うと思って、もうひとつ買ってきたの」
私はレジ袋からもうひとつティラミスのパックを取り出して、畳の上に置いた。
豊姫は目を輝かせて、飛び跳ねて喜んだ。
“もう、小夜!!大好き!!”
抱き付かれても、身体は透けているので当然感触はない。
“いただきまーす!!”
豊姫が元気よく言うと、お供えしたティラミスから人魂のようなものが分離する。
豊姫はパクンと人魂を飲み込むと、もぐもぐと口を動かした。
最初に見た時は本当に驚いたけれど、今ではすっかりお馴染みになってしまった。
……豊姫は食べ物から魂を分離することができる。
魂が分離された食べ物は、食感や匂いはそのままに味だけが無くなる。
魂の抜けた食べ物の味は想像を絶する。まるで、粘土や糊でも食べているような気分になった。
それ以来、豊姫に食べ物をあげる時は自分用とは別に用意するようになった。