もう一度君の笑顔を
「え?」


驚いた彼女にもう一度言った。


「だから、私にはもう関係ないことなの。」


そう言うと、彼女は今度こそ私の言葉の意味を理解したらしく、驚いた顔のまま無言で私を見つめて来た。



ちょうど来たエレベーターに乗り込むが、彼女は固まったまま動こうとはしない。



「乗らないの?」



私の問いに彼女は無言で首を振った。



「そう、じゃあ。」



私は、『閉』のボタンを強く押した。



これで、あっという間に私と彼が別れたという事実が広まるだろう。



そしたら、今週末には彼には大勢の女性からアプローチがあり、彼はその中から可愛い子を選んで、すぐに次の恋人が出来るに違いない。


そしたら、私と付き合ってたことなんてみんなすぐに忘れるに違いない。


きっと彼も。


別れを告げた時の悲しげな顔が脳裏をよぎり、思わず首を振った。



あれはきっと、女に振られた事無い彼が、私なんかに振られて傷ついたのだろう。


そうだ、きっとそうに違いない。


そう思い、気持ちを切り替えた。



今日、平静を装う為に昨日は泣くのを我慢したのだ。


ここで仕事のミスをしては昨日の努力が水の泡だ。


彼の事は忘れよう。


あれは、夢だったんだ。
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