もう一度君の笑顔を
「あれ、総務の田中さんじゃん!!」


さっきのやり取りを見ていた武井が興奮気味で話しかけて来た。


田中?そんな名前だったっけ?


まぁ、もう必要ない。


「お前さぁ〜彼女いるんだから、社内のかわいい子に手つけるのやめろよぉ〜」


情けない声を出す武井。


手付ける?失礼な。指一本触れた事など無い。


俺は、ため息を付いた。


「鉄の女じゃ物足りないかもしれないけど、あんまり好き勝手やってると刺されるぞ。」


真剣な顔で的外れな忠告をして来る武井。



物足りない?そんなわけない。十分満足している。



俺の付き合って1年になる彼女は、同じ会社の営業にいる。



商社の営業と言うハードな環境で、男に負けずトップクラスの成績をあげる彼女のあだ名は『鉄の女』。


だが、彼女は『鉄の女』なのでは無い。


彼女の柔らかな笑顔が脳裏に浮かび、思わず顔がゆるみそうになる。


「・・・おい。」


ずっと何も言わない俺に腹を立てたのか、さっきよりも低い声で話しかけて来た武井を振り向けば、


「ホント、いいかげんにしとけよ。」


アホに見えて、実はなかなか鋭い武井に真剣な顔で言われてしまった。


俺は無言で頷いた。


そうだ。こんなことしてる場合じゃない。


来月は彼女の誕生日だ。


そろそろケジメをつけなければ。
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