もう一度君の笑顔を
病院の廊下を無言で歩く野崎さんの後ろを黙ってついて行く。


夜の病院と野崎さんの目的が分からず、空気が重い。



病院の建物から出ると、野崎さんは立ち止まって、振り返った。



「タバコ、いいかな?」


「あ、はい。」



俺の返事を聞くと、野崎さんは慣れた手つきでタバコを取り出し、火をつけた。



肺に入れた煙をゆっくりと吐き出すと、苦笑気味に言った。



「体に悪いとは思ってても止められない。」



そう言って、俺をまっすぐに見つめると、


「長生きはしたいけど、友紀よりは早く逝きたいからね。」



笑っている様にも泣いている様にも見える表情でそう言った。



確か、野崎さんは友紀のお母さんの義理の弟で友紀とは血がつながっていないはずだ。



なのに、二人の間には誰も踏み込めないような特別な絆がある様に見える。




そんな俺の疑問を読み取った様に、野崎さんは話し始めた。



「友紀の父親はね、まだ友紀が小さい頃に交通事故で逝ってしまった。


 それからというもの、俺は友紀の叔父でもあり、父親代わりでもあったよ。


 それから友紀の母親が病気で亡くなって、俺の父も継母も、友紀に取っては祖父母を相次いで亡くしてしまった。


 俺と友紀はね、大切な人を一緒に看取って来た同士でもある。


 つらい経験を一緒に乗り越えて来た仲間なんだ・・・」




そう言うと、野崎さんはタバコを持っていた携帯灰皿に押し付けた。



それを聞いて納得した、やはり友紀にとって野崎さんは特別な存在なのだと。


そして、その事に軽く嫉妬してしまう自分もいる。



「俺はね、友紀には幸せになって欲しいんだ。

 もっと言うと、俺が死ぬ時に友紀のそばには、友紀を支えてくれる人が居て欲しいと思う。」



その言葉に、どう返していいものか分からず、ただ野崎さんを見つめていると、野崎さんは不適に笑い言った。


「別れた女の叔父にそんなこと言われても困るか??」



その声は、驚くほど冷たく、敵意に満ちている様に聞こえた。


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