もう一度君の笑顔を
突然言われたその言葉に衝撃を受ける。


「え?あの・・・」



狼狽える俺を見て、野崎さんはため息をついた。



「図星か・・・」



どうやらかまをかけられたらしい。



「あ、あの・・・」



何か言わねばと思う俺を野崎さんが手で制す。



「友紀も大人だ。付き合いに細かく口を出すつもりは無い。


 それに今の友紀は、事故に会ったショックや記憶を失った不安から君を必要としていると思う。


 ただ、中途半端な気持ちなら、もう友紀のことはほっといて欲しいと言う事だ。」



さっきの声とは違って冷静に話す野崎さん。



「俺は・・・俺の勘違いで、友紀さんを傷付けてしまいました。


 その結果、友紀さんに振られてしまったんです。


 今、友紀さんはそのことを忘れてしまっています。

 それにつけ込むようなことになりますが、それでも俺は友紀さんが好きで、友紀さんが俺を必要としてくれくならそばいたいと思ってます。」


「記憶が戻ったとき、友紀が君がそばに居た事を忘れたとしてもか?」



「え?」



「医者に言われた。100%ではないが、友紀は記憶が戻ったとき、記憶を失っている間の記憶がなくなる可能性が高いらしい。


 それでも君は、友紀のそばにいるのか?」



「はい。それでもかまいません。」



俺の決意にもう迷いなかった。



「君は友紀が好きか?」


「はい。」



「二度と友紀を泣かせないと誓えるか?」


「はい。」



「友紀が記憶が戻って君を拒絶したらどうする?」


「友紀さんに、すべてを話して、謝罪します。

 それでも受け入れてもらえない場合は、潔く身を引くつもりです。」



「最後に聞いてもいいか?」


「何ですか?」



「君の勘違いとはなんの事だ?」



「そ、それは・・・」



あなたとの関係を誤解してましたとは言えない。

どうしたものかと狼狽える俺に野崎さんが続ける。


「質問を変える。

 君のした勘違いとやらは、前に会った夜に俺を睨んでいたのと関係があるのか?」



「っ・・・・」



またても返答に困ってしまった。



そんな俺を見て、肯定だと取った野崎さんは、大きなため息をついた後、俺に背を向けて言った。


「友紀を頼む・・・」


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