もう一度君の笑顔を
「初めまして。

 友紀さんと同じ会社で同期の林梨花と申します。」



そう言って俺の方を向いて挨拶してくれた。



「ご丁寧にありがとうございます。

 友紀の叔父の野崎です。いつも姪がお世話になってます。

 来て下さってありがとうございます。」


「いえ、こちらこそ友紀さんにはいつもお世話になっています。」



俺たちが挨拶しているのを友紀はニヤニヤしながら見てくる。



「何がおかしい。」


「いや、何か不思議な光景だな・・・と思って。」


「心配かけといて、何のんきなこと言ってんの!」


「ごめん・・・」



可愛い顔してるけど、なかなか毒舌家のようだ。



友紀の記憶が飛んでいる事を知った林さんはひどく友紀を心配してくれた。



林さんが来てから2時間ほど経っただろうか、俺がトイレに行って病室に戻ると、見知らぬ男が立っていた。


とりあえず、また座っている友紀を注意した後、男を見る。


よく整った顔のその男は、驚きの表情で俺を見て来る。



どっかで見た事ある顔だった。



そう思って、記憶の糸をたどり思い出したのは、以前、友紀を会社まで迎えに行った際に、俺を睨みつけていた男だった。


若い男に恨まれる覚えの無い俺はその時は不思議に思ったが、ここに来て納得がいった。


その男はやはり友紀の彼氏だった。



半年ほど前までは上手くいっていたようなのに、ここ最近は上手く言っていないのが友紀の態度から分かっていた。


顔を真っ赤にする友紀に対し、明らかに動揺する男。


友紀がここ数ヶ月の記憶を失っていると聞いた時のあの表情。


ある疑念が脳裏をよぎる。



俺の考えが読めるかの様に、林さんは先に帰って行った。


俺は、確かめる為に、その男、中野光輝と病室を出た。

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