もう一度君の笑顔を
中野光輝は、以外にも黙って俺について来た。


病院を出たところで、タバコを取り出す。


友紀には、寿命を縮めるだけだと怒られるが、やめられない。


もし、長生きして、うっかり友紀が先に逝ってしまったらどうする?


友紀には悪いが、それだけは勘弁して欲しい。


少しでも多く友紀のそばに、そして、友紀よりも早く千佳のもとへ逝く。


決して口には出さないが、それが俺の最大の望みだ。



黙って俺の話を聞く目の前の男を見つめる。


なぁ、千佳・・・目の前のこの男は、友紀の側にいるのに相応しい男だろうか・・・


この男と付き合い始めた頃の友紀は、本当に幸せそうで、あんな笑顔、千佳が生きていた時以来だった。


年も年だし、このまま結婚するんだろうかなんて感傷にひたったりもした。



でも、この男は友紀と別れたらしい。


何故、友紀と別れた?


見舞いに来て、あんな瞳で友紀を見つめるくらいなら、何故友紀を傷付けた?



外れて欲しいと思う疑惑が脳裏に浮かんではなれない。



「君のした勘違いとやらは、前に会った夜に俺を睨んでいたのと関係があるのか?」



決定的なその問いに中野光輝は動揺を隠せない。


その反応ですべてを悟ってしまった。



二人が、別れた原因が少なからず自分にあることを。




本当なら、友紀を傷付けた男など、社会的に抹殺して、二度と友紀に近づけないようにしてやりたいのに、その原因の一端に自分があると思うとそうもできない。



自分が友紀の幸せを邪魔する要因になるわけにはいかない。



俺は、相手を殴りたいのをグッと堪えて背を向ける。



理由はどうあれ、今の友紀が、こいつを必要としているのには間違いない。


友紀ももう大人だ。


記憶が戻ったとき、どうするかは友紀次第だ。



でも、もし、もう一度友紀を傷付けたなら、俺は今度こそお前を許さない。


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