もう一度君の笑顔を
俺は、毎日毎日、友紀の見舞いへ行った。


それこそ、友紀が俺の仕事を心配してしまうようなレベルで。



「ホントに、仕事大丈夫なの?」


「あぁ、大丈夫だよ。」



心配そうな友紀の瞼にキスをする。



始めは、髪を撫でる程度だった。


それが、病室に居る間ずっと手をつなぐようになって、一度キスをしてしまうと、もう止められなくなった。



そんな瞬間が幸せで、幸せ過ぎて怖くなる。


『100%ではないが、友紀は記憶が戻ったとき、記憶を失っている間の記憶がなくなる可能性が高いらしい。』


野崎さんが言った言葉が脳裏に焼き付いて離れない。


あの時の俺は、友紀の側にいたい一心で、その後どうなるかなんて考えてなかった。


でも、友紀の笑顔を見るたび、友紀にキスするたび思ってしまう。



このまま友紀の記憶が戻らなければいいのに・・・




そんな自分勝手な考えばかり浮かんでしまう。




勝手な勘違いと幼稚な考えから散々友紀を傷付けたくせに、一度失って、友紀の大切さを身を以て実感した俺は、もう一度友紀を失う事を恐れている。



そして、友紀が記憶を失った間に何が起こったか知ってしまう事も。



林梨花は、何度が見舞いに訪れている。



2度ほど鉢合わせした。



その時の、林梨花のあきれ顔といったらなかった。



でも、俺は全然気にならない。



今の俺は、友紀と仕事のこと以外どうでも良かった。



椅子に座って、ベットの上の友紀の足の上に頭を置く。



その頭を友紀が撫でる。



俺ってこんなに甘えん坊だったっけ?




母親にさえ頭を撫でられた記憶はないのに、友紀にされると心地よくて病み付きになった。



仕事を終えて直行してから病院の面会時間が終わるまでの40分。



この幸せな時間がいつか終わってしまうのが怖くてしかたがない。

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