もう一度君の笑顔を
「こう・・」


「それだけじゃない!」


友紀の言葉を遮って続けた。


「1回だけじゃない・・・

 友紀が嫉妬してくれて嬉しかった俺は、何度も何度も同じ事を繰り返した。

 でも、そんなことしてるうちに、友紀が俺の前で笑わなくなっていった・・・

 そのうち、前よりもっと会わなくなって・・・

 そんな時、友紀が事故にあったんだ。

 心配で、心配で、さんざん友紀を傷付けといて、どんな反応されるか怖かったけどそれでも会いに来て・・・

 野崎さんに会ったんだ。

 自分でも馬鹿馬鹿しくなったよ。叔父さんに嫉妬して傷付けたなんて。

 でも、その時、友紀の記憶がなくなってるのが分かって・・・」


そこで顔を上げると、そこには悲しげな友紀の顔があった。



あぁ、この顔だ。



別れる前に俺が見ていた顔はこの顔だった。



どうして、友紀のこの顔を見て俺は喜べたんだろう。


ちょっと前の自分の事なのに不思議で仕方ない。




「何も覚えてない友紀が俺に笑いかけてくれるのが嬉しかった。

 ごめん・・・おれっ、最低だ。

 友紀の退院の話を素直に喜べないなんて・・・」


「私も悪かったの・・・」


「え?」


予想外の返答に驚いた。


「修ちゃんのこと、あまり光輝に話してなかったでしょ?」


「え、そうかな?」



確かに、叔父さんがいるとは聞いていたが、そこまで仲がいいとは聞いてなたかった気がする。


「昔ね、仲の良かった人に、修ちゃんと私の関係はおかしいって言われた事があったの。

 血も繋がってないのに、そんなに仲が良いなんて不自然だって。」



確かに、俺もちょっと思った事だったので、何も言えなかった。



「私にとって修ちゃんは特別なの。

 お父さんみたいで、お兄ちゃんみたいで。

 それに、お母さんが亡くなった時、ずっと側に居た人。

 大切な人を亡くして、一番悲しい時に、誰よりも側に居て誰よりもその痛みを分かってくれる人なの。」


遠くを見ながらそう話す友紀の瞳には、俺の知らない悲しみが浮かんでいた。


思わず友紀の手を握る手に力が入る。



友紀は我に返った様に俺を見た。


「だから、光輝にも話せなかったの。

 また、否定されたらどうしようって・・・

 ごめんね。」


そういって友紀は悲しげに微笑んだ。
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