もう一度君の笑顔を
一年間付き合っていて気づかなかった友紀の悲しみを見た気がした。


それはきっと30歳にもなろうかという年で、両親はおろか祖父母の誰一人亡くしていない俺には理解できないのだろう。


自分の幸せをもどかしく思った。



友紀にとって、野崎さんとの関係を否定される事は、きっとつらい事なのだろう。



「まぁ、俺も不思議には思ってたよ。

 でも、今は、嫉妬の方が大きいかな?」



正直に自分の気持ちを告白した。



「嫉妬?!」


「そりゃするよ。

 自分の好きな人にそんなに大切な人がいるなんてな。」


「変なの〜」


苦笑する俺に、友紀も苦笑で返した。


「ねぇ、光輝」


「ん?」


「私の記憶が戻ったら、また同じ話をしてくれる?」


「え?」


「記憶が戻ったら、今の事は忘れちゃうかもしれないんでしょ?

 そしたら、また、同じ話をしてくれる?」


友紀はどこか不安げな瞳で俺を見つめる。


俺は友紀の手を握っていない方の手で友紀の髪を撫でた。



「当たり前だよ。

 友紀が許してくれるまで、何度も言うよ。」



そう言った。



本当は怖かった。


友紀の記憶が戻るのが。


それでも、記憶が無いとはいえ、友紀に一度許されたことが俺に勇気をくれた。



友紀の記憶が戻ったら、必ず今までの事を謝ろう。


そして、本当の気持ちを友紀に伝えよう。



もし、友紀がそれを受け入れてくれるのなら、もう二度とその手を放したりはしない。


友紀の髪を撫でながらそう誓った。

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