もう一度君の笑顔を
しばらくして、いきなり部屋の扉が開いた。


驚いて扉の方を見ると、修ちゃんがバツが悪そうな顔をして立っていた。


「すまん、驚かせたか?

 友紀が記憶が戻ったって聞いて、つい・・・」


「それにしたって、ノックぐらいしてよ。びっくりしたじゃんか。」


「すまん。

 林さんも、驚かせて悪かったね。」


修ちゃんは、頭をかきながら部屋に入って来た。



「いえ、大丈夫ですから、お気になさらないでください。」



そう言って、梨花はよそ行きの笑顔で笑った。



「それより、記憶が戻ったって本当か?」


「うん。検査も終わって、明後日には退院できるだろうって。」



「そうか、安心したよ。」



そう言って笑う修ちゃんの顔は、本当にホッとしたような顔をしていて、心配をかけたのだと心が痛くなった。


「退院は、午前中か?」


「うん。午前中にして、午後からはゆっくりするつもり。どうして?」


「いや、一日は無理だけど、半休くらいは取れるから。」



「いいよ。子どもじゃないんだから。

 忙しいでしょ?」



「忙しいから、お前を理由に仕事をさぼるんだよ。

 だから、気にすんな。」


そう言って、私の頭をなでる。



仕事を休めば、その分、後でしわ寄せが来る。


そんなことわかりきっているのに、修ちゃんは、何が何でも仕事を休んでくるのだろう。


きっとこの人にとって私は、いつまで経っても子どもなのだろう。



それが嬉しくもあり、恥ずかしくもある。


とりあえず、人前で頭を撫でるのはいい加減止めて欲しい。


梨花の生暖かい視線が痛い。



「林さん、悪いけど、しばらく友紀が無理をしないように見張っててくれる?」


散々、人の頭を撫でた後に、修ちゃんは梨花に言った。



「もちろん、そのつもりです。」


「良かった。こいつ、俺の言う事全然聞かないから。」



私の事なのに、勝手に決めないで欲しい。


「大丈夫だって、子どもじゃないんだから。」



「駄目だ。お前はすぐ無理をするから。」


「そうよ、今度は過労で入院なんて事になったらシャレにならないでしょ?」


二人に揃って言い返されて、それ以上反論できなくなってしまった。



それから二人は、面会終了時間まで談笑して帰って行った。



修ちゃんが来たから、光輝の事はうやむやになったけど、これで良かったのかもしれない。


結局、自分で解決したいといけないことだから。


『退院までに記憶が戻った事、中野さんに言っときなさいよ』


その後届いた梨花からのメールに


『うん。わかってる』


それだけ返した。

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