もう一度君の笑顔を
コンコン


ノックの音に、全身に緊張が走る。


今まで気にしなかった、ドアの磨りガラスの向こうに見える人影が光輝である事を確信させる。


緊張で、返事が出来ないでいると、もう一度ドアをノックする音がした。


コンコン


私は、大きく深呼吸した。



「はい・・・」



気を決して出した声は、少し震えていた。



「友紀、寝てたのか?」


返事が遅かったからか、心配そうに入って来たのは、やっぱり光輝で、その姿を見た瞬間、胸が締め付けられる。



「ううん。起きてたよ。」


「どっか痛いのか?」


「ううん。大丈夫。」


光輝が昨日の様に、ゆっくりと近づいて来て、私の方に手を伸ばす。


光輝の手が、触れそうになる瞬間、その手を避けた。




この手に触れてはダメだ。


きっと何も話せなくなる・・・




「友紀?」


怪訝な顔の光輝をまっすぐ見つめた。


何をどう言えばいいのか分からない。


それでも光輝を見つめ続けると。



やがて、光輝は、何かに気づいた様にハッと息を飲んだ。


「記憶が・・・戻ったのか?」


そう呟いた。


私は、頷く様に下を向いた。



「そうか・・・」



そう言って、私の方に伸ばしたままだった手をそっと下ろした。


「いつ・・・戻ったんだ?」



「・・・・・今日。」



昨日だとは言えなかった。



昨日、あの時、記憶が戻っていた事を知られたくなかった。



「そっか・・・・」


「・・・・・」


沈黙が流れた。



「友紀、俺は・・・」



光輝が何かを言いかけたとき、光輝のスマホの着信音が流れた。



「・・・・」


「出て。」


「ごめん・・・後輩からだ。」


そう言って電話に出た。



「はい、中野です。・・・は?データーが全部飛んだ?

 だって、それは明日のプレゼンに必要なやつだろ?

 落ち着けって、俺も今から行くから・・・あぁ、わかった。また後でな。」


「仕事?」


「ごめん、明日のプレゼンに必要なデーターが飛んだって。

 俺、行かないと・・・」


「うん、私の事は気にしないで早く行ってあげて」


「悪い、友紀。でも俺、友紀に話があるから・・・時間がある時に聞いて欲しい。」


「・・・分かった。」



光輝は、本当に申し訳なさそうな顔をしながら部屋を出て行った。
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