恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……はぁ、」
溜息をついて、自分が持ってきた荷物の中を何気なしに見る。その中に数枚紙のようなものが紛れているのが見えた。
あ、適当にあれこれ持って来て、チラシまで持ってきちゃった。ついでだし駅のゴミ箱に捨てていこう……。
そう思い袋からチラシを取り出すと、それはチラシはチラシでも旅行のパンフレットだった。
『夏休みは大自然と温泉で!』と書かれたそれには、様々な温泉旅館やツアーなどの案内が載っている。
そういえば『今年の夏は旅行に行こう』って話していて、ふたりで旅行会社行ってパンフレット貰ってきたんだっけ……。結局そのまま話は進まないままだったけど。
「……温泉、ねぇ」
そのまま捨てるはずが、ついまじまじと見てしまう。
『温泉でリラックス』『身も心も癒されよう』、かぁ。この旅館素敵だなぁ、意外と値段も安いし……。
そうあれこれと考えるうちに心はその景色に奪われ、頭の奥でなにかがぷつんと音をたてた。
……そうだ、旅に出よう。
何も考えず、素敵な場所でただひたすらダラダラとするだけの旅。それも、丸一ヶ月。
仕事は有給使って、残りは休暇届け出して、もういっそ辞める勢いで。貯金だって使い果たしてやる。
その後の生活のことなんて考えずに、一度全てリセットする。
そうと決めたら即行動。パンフレットに載っている情報を参考にしながら、スマートフォンを取り出して宿探しを始めた。
何をしに行くのか、何のために行くのかは決めていない。
空っぽになってしまった自分の中身をより空っぽにしに行くのか、埋めるためのなにかに出会いに行くのか。
なにひとつ分からない。ただ今は、少し疲れた。