恋宿~イケメン支配人に恋して~
「その皿、割るなよ」
「あ……千冬さん」
すると、突然聞こえた低い声に振り向けば、そこにいたのは通りがかったところらしい千冬さん。
その目は私の手元の皿を見ながら、フンと笑う。
「割りませんよ。人のことなんだと思ってるんですか」
「どうもお前は危なっかしいというか……あ、ちなみにその皿は70万だからな」
「なっ!?」
70万!?
自分が気安く触れたものにそこまで価値があるとは思わず、驚きのあまり動揺した手が皿にぶつかってしまう。
「あっ!まずい!」
「あっ!バカ!」
言われたそばから落としかけた皿に、私と千冬さんは手を伸ばし間一髪それを受け止めた。
「ふ、ふぅ……セーフ」
「だから気をつけろって言っただろうが、バカ女」
叱るように言う彼に「すみません」と呟いたところで、ふと気付く。
後ろから慌てて皿を受け止めた千冬さんの腕は、私を抱きしめるように回され、おまけに皿を受け止める私の手に重ねるように彼の手も皿をつかんでいることに。
ぴったりとくっついた身体に、手を包む大きな手。少し熱い体温に彼を感じた瞬間、心臓がドキッと鳴った。
「ぎゃっ、ぎゃー!!」
「うぉっ!」
一気に込み上げる恥ずかしさに、つい体を突き飛ばし離す。その反動で後ろの壁にぶつかった彼の頭は、ゴンッ!と勢いのいい音をたてた。
……げ。痛そうな音……。