恋宿~イケメン支配人に恋して~
なんだろう、誰だろう。いくら考えても全く検討がつかないまま、やって来たフロント。
「すみません大渕さん、お客さんって……?」
「あぁ、あそこに座ってるよ」
フロントマンの大渕さんが視線で指す先を見る。するとそこ、フロント横のロビーにはソファに座る後ろ姿。
茶色いふわふわの髪に、紺色のジャケットを着た細い背中。その後ろ姿は、見慣れたもの。
え……、もしか、して。
「……慎……?」
小さく呟いた名前に、振り向いた顔はやはり慎。
小さな顔に茶色い瞳、女の子のような繊細な顔立ちの彼は、私を見て一瞬喜ぶもののすぐに表情を驚きに変える。
「理子……!どうしたの、その格好」
「どうしたのって……慎こそ」
驚いてしまうのは、私だって同じだ。
なんで、どうして慎がここに?
「理子がすぐ携帯なくすからって、GPS機能のアプリ入れてあったじゃん。ここ何日かでようやく電源入ったから、それでやっと場所分かって……」
あ、そういえば。言われて思い出せば、私のスマートフォンにはGPS機能のアプリが入れてある。
というのも、私が携帯をすぐどこかに置いたままにしてしまうからそれを探す時のため。こちらが許可しなくても慎の携帯から探せるように設定してあったんだっけ……。
そんな大事なこと、すっかり忘れていた……!
「なんでメールも電話も返してくれなかったの?それにその格好……」
「すみません、お客様。ここではなんですからよろしかったらあちらのお部屋でどうぞ。大渕さん、ご案内して」
質問を一気に投げかけようとする慎に、千冬さんは間に入ると別館の応接室へ向かうように案内する。
「理子、お前今日は話終わってから仕事でいいから。一回きちんと話してこい」
「けど……、」
「可愛げなくても、素直にな」
そして私の肩をポン、と叩くと同じく応接室へと向かわせた。