恋宿~イケメン支配人に恋して~
*3
8.花は香る
『ここにいたい』
迎えにやってきた慎の手を振りほどいて、自分の意思でここに残ることを決めた。
それは、半月前の自分では考えられないような変化。
その変化をくれたのはきっと、真っ直ぐに向き合ってくれる彼の言葉。
「あら、随分きれいになったわねぇ!」
旅行18日目の日の午後。脚立に乗り窓拭き用モップを手にする私の足元で、おばさんたちはうふふと笑う。
目の前には旅館入口の大きなドア。ガラス部分は私が拭いたこともありピカピカと輝く。
「やっぱり若い子は動きが違うわねぇ。ありがとねぇ理子ちゃん」
「いえ、頼ってもらえてよかったです」
そう、休憩時間を終え雑用仕事をしようとしていたところ、仲居のおばさんたちから任せられたのは入口ドアの掃除。
清掃係の人たちは時間がないからとなかなかここまで掃除をしてくれないし、おばさんたちは怖くて脚立に乗れない。ちなみに八木さんは高所恐怖症だとかで出来ないし……となかなか掃除出来ずにいたらしく、私に任せられたのだった。
「ついでにこの上の部分も拭きます。雑巾取ってもらっていいですか」
「あら、届く?」
「背伸びすればなんとか」
取って貰った雑巾と持っていたモップを交換し、雑巾でドアの上のほうを拭こうと手を伸ばす。