恋宿~イケメン支配人に恋して~
「わ~、すごーい。オシャレな旅館~」
「だろ?前にも来たことあってな、お前なら絶対気に入ると思って」
見ればお客さんは、20代くらいの女の子と40代くらいの渋めの男性。一見年齢差のある二人はよほどラブラブなのか、腕を組みべったりとくっつきながら歩く。
「あ~、ってことはここ奥さんと来たところなんでしょー?」
「あはは、どうだろうな」
「奥さんとの思い出の場所に愛人と来ちゃうなんて悪い人~。けどそこがまた好きっ」
きゃっきゃとはしゃぎながら話すふたりの語尾には、ハートマークが見えてくる。
ていうか、『奥さん』『愛人』って……不倫カップルなんだ。
今にもキスし始めそうなほど顔を近付け、自分たちの世界に入ったふたりの前を、仲居さんが気まずそうな顔で案内していく。その後ろ姿を私と八木さんは黙って見送った。
「ふ……不倫カップル、ですか」
「まぁ、ああいう人も度々いるんだよねぇ。夫婦だろうと不倫だろうとお客様には変わりないから、気にしないけど」
その答えはとても八木さんらしい。でもおばさんたちはああいう話好きそうだな……。
そんなことを思いながら、私は八木さんとまた廊下を歩き始めた。