恋宿~イケメン支配人に恋して~
千冬さんが以前言っていた通り、旅館っていうのは本当にいろんな人が来るんだ。
家族連れから恋人、不倫カップル……。その人たちの相手をするのは、確かにパソコンと向き合う日々より刺激的だ。
大変でもあるけど、それと同時にどう対応したら喜んで貰えるかとか、あれこれ考えるのが楽しい。
自分に出来るか出来ないか、向いているかいないかは半月働いてもまだよく分からない。
だけど好きか嫌いか、それくらいは分かる。
「今日の仕事終わりー!」
夜23時。今夜は少し慌ただしく、ようやく終わった仕事に私は両手を上げ伸びをしてフロントの前を歩いていた。
他の皆は何人かあと少し仕事するって言ってたけど、私はあがっていいって言うから遠慮なくあがらせてもらおう。
明日もまた朝からだし……。
ふぁ、とあくびをこぼしたその時、フロントの電話がプルルルルル……と鳴りだす。
あれ、大渕さんがいない。誰かいないかと辺りを見回すものの他のフロントマンも見当たらず、迷った結果電話を取ることにした。
この時間ってことは宿泊のお客さんからの電話だろうし、とりあえず用件だけ聞き取ろう。
「はい、フロントです」
『あ……すみません、401号室の者ですけど』
受話器から聞こえる女の人の声を聞きながら、手元の宿泊表を見る。
401号室……は、中年夫婦のお客さんだったっけ。
「福田さまですね、どうかされましたか?」
宿泊表に書いてある名前を読みながら問いかけると、受話器の向こうの女性の声はなにか言いづらそうに渋る。