恋宿~イケメン支配人に恋して~
『ええとね……隣のお部屋の人が、ちょっとうるさくて。注意していただけないかしら』
「隣?えーと、402号室のほうですね。分かりました、今伺います」
って、それだけ?なんだ、別に渋るような内容じゃないじゃん。寧ろ私ひとりで対応できる。
そう思い電話を切ると、私はひとりで402号室へと向かい歩きだす。
歩きながら再度宿泊表を見ると、402号室には『松井様 男1名・女1名』の文字。
……あれ、そういえば402号室の松井って、確かあの不倫カップルだ。
昼間、あのあとやはり休憩室にいたおばさんたちの間では不倫カップルの話で持ちきりで、おかげでこちらまで『402号室のあの客』と覚えてしまった。
けど騒音って……なんだろう。テレビの音量、じゃそこまでうるさくはないよね。
もしかして喧嘩しているとか?それだったら注意しづらいな……。
そう廊下を歩いていると、目の前からはこちらに向かって歩いて来る千冬さんの姿。
「ん?どうかしたのか」
「401号室のお客さんから『隣の部屋がうるさい』って電話きたんで。注意しに行くところで」
「隣……ってことは402号室か。確か、『不倫カップルだ』って聞いたな」
その話は千冬さんの耳にまで届いていたらしい。彼は少しなにかを考えると、体の向きを変え私と同じ方向を向く。
「なら俺も一緒に行く」
「え?別にこれくらいなら……」
「向こうは男がいるだろ。この時間だから酔っ払ってるかもしれないし、注意して逆に殴りかかられるってこともありえる」
な、殴り……!?
そうか、そこまで考えていなかった。それは確かについてきてもらったほうがいいかも。納得し、千冬さんと並んで歩き出した。