恋宿~イケメン支配人に恋して~
エレベーターでのぼり、降り立った4階。廊下を歩いて2つ目のドアが、402号室だ。
「あ、あの部屋ですね……」
ドアを指差しながら部屋へと近付こうとした、その時。
「あっ、あんっ、あぁ~っ……!」
ドアの向こうから聞こえたのは、それはそれは大きな喘ぎ声。部屋の中から筒抜けの女性の声に、思わず私と千冬さんの足は止まる。
こ、これは……えーと。
「……こりゃ迷惑だな。401号室の人も可哀想に」
同じことを考えているのだろう、彼の顔は苦笑いをこぼした。
「……これも注意しなきゃいけないんですか」
「当然だ。本人たちは盛り上がっているんだろうが、聞かされる客は不快でしかないからな」
「あんっ、だめぇ、あぁんっ」
私たちが話す間も、部屋からは聞こえる激しい声。人の喘ぎ声を千冬さんとふたりで聞くという……なんとも、微妙な空気。
ついお互い一瞬無言になりながら、千冬さんは「ゴホン」と咳をひとつして気を取り直す。
「……行くぞ」
「は、はい」
そして目の前の茶色いドアをコンコンとノックした。
「夜分遅くに失礼致します。松井様、少しよろしいでしょうか」
彼が落ち着いた声で言うと、少ししてからガチャ、とドアが開けられる。
そこから顔をのぞかせたのは、急いで浴衣を羽織ったといった姿の大柄なおじさん。昼間、女性とくっついて歩いていた不倫カップルの片割れだ。