恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ん?あぁ、なんだよ」
「申し訳ございません、近隣のお部屋の方々から物音に関しての苦情がありまして……このお時間ですし、もう少しお静かにお願い致します」
「物音?あぁ、そうか!すまねーなぁ、つい盛り上がっちまって!」
腰を低く注意をする千冬さんに、男性はがははと豪快に笑う。
「けど俺の女、いい声出すだろ?なんてな!ははは!」
……またリアクションに困る言い方だ。さすがの千冬さんも、苦笑いを見せるしか出来ず、「では」とその場を去ろうとした。
すると不意にこちらを向いたその視線。
「おっ、そこの嬢ちゃん可愛いな。どうだ、一緒に混ざるか?」
「え!?」
にや、と笑って男性の手は私のほうへと伸ばされる。けれどそれをかわすように、千冬さんは私の肩を抱いてよけさせるとそのまま歩き出した。
「ち、千冬さ……!?」
「行くぞ」
お客さんの前で、こんなに明らかな態度をとって大丈夫なのかと一瞬不安になってしまう。
けれど背後からの「あっはっは」と笑いながら部屋へ戻って行く声に、男性も冗談だったのだろうとさとった。
抱き締められた肩にドキ、と鳴る胸。かわすためなんだろう、けれど突然触れた手に一気に緊張してしまう。
細く優しい慎の手とは違う、ごつごつとした大きな手と力強い腕。それらが、彼も男の人なのだと知らせる。
……こうやって簡単に、触れないでほしい。
慎への気持ちも整理がついたばかり、それに千冬さんには八木さんがいる。
なのに、こうして触れられたらドキドキしてしまう。恥ずかしい、熱いよ。