恋宿~イケメン支配人に恋して~
「うぉっ!」
思わず目の前の彼にぶつかった私に、千冬さんは突然のことに受け身がとれず、ふたりはそのままドターンッ!と倒れた。
「いたた……」
ぶつけた顔がじんじんと痛む。けれど床にぶつけたにしては柔らかなその痛みに、ほこりがたつ中そっと目を開けると、そこには私の下にいる千冬さんの姿。
そう、ひっくり返る形で床に背中をぶつけた彼の上に私は押し倒すような形で乗っており、互いの体はぴったりと密着する。
「お前……人巻き込むなっ、て……」
痛そうに歪んだ顔は、目の前の私の姿に同じく状況を把握したのか驚きへと変わる。
わ、私……千冬さんのこと、押し倒して……!?
「ぎゃっ……ぎゃー!!!むがっ」
「バカ大声出すな!!」
つい悲鳴を上げた私に、千冬さんは黙らせようと私の口を塞いだ。
ところが今この形でいる状況に加え、先程意識してしまったばっかりの大きな手が唇に触れることで、さらに強く心臓は鳴る。
「っ~……」
自分でも分かるほどたちまち耳まで真っ赤になる自分の顔に、つられたように千冬さんの頬もほんの少し赤らんだ。
「な、なに照れてるんですか、気持ち悪い」
「気持ち悪いって言うな!つーかお前が先に照れたんだろうが!」
「てっ照れてない!」
「照れてるだろ!耳まで真っ赤だろ!」
お互い恥ずかしさを誤魔化すようにギャーギャーと騒ぐ。その時、ガチャッと勢いよく開けられたドア。
「どうかしたの!?今何か物音と声がっ……」
そこから姿を現したのは、私の悲鳴を聞きつけ駆けつけたらしい仲居のひとりであるおばさん。
けれどそのおばさんの見た先には、横になる千冬さんとその上に乗る私という光景があるわけで……。