恋宿~イケメン支配人に恋して~
「あぁ、それは千冬くんの高校の卒業式の写真ね」
「卒業式……あ、じゃあもしかして隣に写ってるのって」
「そう。先代の旦那と女将、千冬くんのご両親よ」
千冬さんの、両親……。
スーツを着た、少しいかついがっちりとした体の男性と、淡い水色の着物を着た柔らかな雰囲気の女性。
嬉しそうに、優しげに笑う表情にふたりがどんな気持ちでその日を迎えたのかが伝わってくる。
「……優しそうな、人たちですね」
「えぇ。いい人だったわ、本当に」
「お客様への気遣いはもちろん、私たち従業員のこともいつも一番に考えてくれていたしね」
箕輪さんがふふ、と笑うと、昔からここで働いているのだろう仲居の皆はうんうんと頷く。
「だから私たちはあの人たちについていけたし、そういうところは千冬くんもそっくりだから、今も変わらずついていけるの」
ふたりにそっくりな、千冬さんの姿。
『継ぐ気なんてなかった』、そう言いながらも似てしまうのはきっとその姿をきちんと見ていたから。生まれ持った性格が、同じ志を持っていたから。
怖いけど優しい、千冬さん。そんな彼の両親。……一度でいいから、会ってみたかったな。
「こら、いつまで喋ってる」
すると突然、その一言とともに私の手から写真はパッと奪われる。
顔を上げると写真を手にした彼……千冬さんは不機嫌そうな、顔でこちらを見ていた。
「あ……反抗期息子」
「誰がだ!ったくこんな昔のもの引っ張り出して……箕輪さんたちもこいつに余計な情報与えなくていいですから!」
「あらあら、怒られちゃったわね~」
箕輪さんは反省するそぶりもなく笑って流すと、写真をかき集めささっとしまう。