恋宿~イケメン支配人に恋して~
夜19時。宴会の始まった広間では、社員旅行で来た大勢の男性たち……主におじさんたちが、わいわいとにぎやかにお酒を酌み交わす。
「八木さん、ビール追加持ってきました」
「ありがとう、じゃあ奥のテーブルから順に運んで」
「はい」
当然その中で料理やビールを運ぶ私たちは大忙し。動きづらい着物でてきぱきと動く八木さんたちに習い、私もビール瓶を両手に座敷を歩き回る。
忙しい……!おばさんたちはいつもこんな風に動いているんだ。大変だなぁ。
汗で流れそうになるアイラインに、目尻を中指の腹で軽くおさえた。
「おー、姉ちゃん若いのによく動くなぁ」
すると声をかけてきたのは、客のひとりである痩せたおじさん。その手にはビールの入ったグラスを持っている。
「は、はぁ」
「感心感心!ゆとり世代なんていうけどなぁ、これからの日本を作っていくのは君ら若者なんだからなぁ!」
酔っ払っているのか、おじさんは大きな声で高々と言うと、細い手で私のお尻を撫でた。
「ぎゃっ!」
「さすが若者、ハリのある尻してるなー!どれもっとじっくり……」
「す、すみません!忙しいので失礼します!」
このままでは更に触られる。ニヤニヤと笑うおじさんからそう感じ取った私は、慌ててその場を離れると八木さんたちのいる廊下へと出た。
「理子ちゃん、大変だったね。大丈夫?」
「なんですかあれ!痴漢!?セクハラじゃないですか!?」
すぐさま八木さんに泣きつくように言うと、一部始終を見ていたのだろう八木さんは苦い笑いをこぼす。