恋宿~イケメン支配人に恋して~
「わ……本当に素敵」
町の雰囲気を見て伊香保にしようと決めた後、泊まるのはここにしようとすぐ決めた。
少し古さのあるノスタルジックな建物の外観、手頃な料金、宿泊者のレビューや口コミ評価もすごく良かったし、料理のメニューも魅力的。どれをとっても、ここがいいと思ったから。
予約の電話をした時も、『明日から一ヶ月連泊したい』といきなり言い出す変な女を快く受け入れてくれたし……。
腕時計でチェックイン時刻の15時であることを確認すると、引き戸を開けて旅館の中を覗き込んだ。
「こんにちはー……」
小さく呟きながら見た戸の向こうには、広い玄関と木目の床。綺麗に磨かれたその廊下の奥に、フロントと旅館の人らしき影がある。
「いらっしゃいませ、新藤屋へようこそ」
するとそこから現れたのは、淡い緑色の着物に白い帯を巻いた仲居さんであろう女性。
笑顔で静かに寄ってくる彼女は私より少し年上だろうか、品のある空気を纏っている。
「すみません、予約していた吉村ですが」
「はい、吉村様ですね。ではあちらでチェックインをお願い致します」
「お荷物お預かり致しますね」
そう続いてやってきた中年女性の仲居さんにキャリーバッグを預けると、手荷物のトートバッグだけを持ち受付へと向かう。
そして名前を書いたり、あれこれと説明を受けチェックインを済ませた。