恋宿~イケメン支配人に恋して~
「お酒の入ってるおじさんは大体あんな感じなんだよねぇ……こういう仕事にはわりとつきものだから」
「そうなんですか!?気持ち悪……」
「つらいかもしれないけど、相手にせずに事を荒立てないで流しておくのが一番」
八木さんもよくあることなのだろう。慰めるように私の肩をぽんぽんと優しく叩く。
これだからさっき箕輪さんたちは『若い子は宴会に出したくない』『何があっても気にしないこと』って言っていたんだ……!
触られた感触にまだぞわぞわとする体を自分の手でさすりながら、動揺する心を落ち着ける。
「でも、なんで何も言わないんですか?『セクハラ!』って言えばやめてくれるかもしれないのに」
「そうだねぇ。でも客商売だから、もし揉め事が起きたりしたらそれこそここをダメにしちゃうかもしれない」
「え?」
諦めたような笑みを見せる八木さん。目の前ではあれだこれだとにぎやかに、宴会が盛り上がる。
「私たち客商売はさ、評判が一番怖いの。例えば少しの揉め事で不満を感じたお客様が旅行サイトのレビューに『最低な旅館だった』って書いたりしたら、それを見た理子ちゃんはその旅館に泊まろうと思う?」
「あー……」
何の情報もない状態で『最低な旅館』と書かれていたら、例え嘘でもそれを見抜くことなんて出来ずに信じてしまうだろう。
信じれば当然、そこに泊まろうと思う気持ちは躊躇われる。
答えを濁す私に、八木さんはその意味をさとるように悲しげに笑う。
「悲しいけど、そういうことだよね」
多少嫌な思いをしても、この旅館のために我慢をしている。ここを、守るために。
思い出すのはさきほどの、箕輪さんの言葉。
『今も変わらずついていけるの』