恋宿~イケメン支配人に恋して~
部屋まで……って、こんな体格のいい人を私ひとりで支えられる自信なんてないんだけど。
「じゃあ今男性スタッフのほうを……」
「わざわざ呼ばなくていーって!少し支えてくれりゃいいからよ」
「はぁ……」
でもやっぱり誰かに手伝ってもらおうかな。そう周りを見渡すけれど、八木さんたちはそれぞれ自分の仕事で忙しそう。
動き回る皆を捕まえて手伝ってほしいなんて、さすがに言いづらいし……仕方ない、ひとりで行こう。
「すみません、八木さん。お客さん部屋まで送ってきますね」
「えっ、一人で大丈夫?」
「大丈夫です。届けたらすぐ戻りますから」
ちょうどこちらへ歩いてきた八木さんにそう伝えると、私はそのお客さんの体を支えながら廊下を歩き出した。
「うぃ~っく、飲みすぎたなぁ~」
「大丈夫ですか。お水、お持ちしましょうか」
「おー、気がきくじゃねーか~。しけた旅館のくせになぁ~」
しけたって……ムカつくなぁ。廊下の真ん中に捨てていってやろうか。
発言にカチンとくるものの、顔には出さずにその重い体を支えて歩く。
そしてなんとか部屋に着く頃には、私の足はふらふらで、正直『やっと着いた』という気持ちでいっぱいだ。
「着きましたよ」
「おー、ありがとうなぁ」
お客さんはそうガチャガチャと部屋の鍵を開けると、そそくさと部屋へと入る。
「では後からお水のほうお持ちしますので……」
そこまで言いかけたところで、突然強く引っ張られた腕。
「へっ……!?ぎゃあっ!」
なんの構えもなく部屋へと引きずり込まれる体は、ドタンッ!と床に勢いよく転んだ。