恋宿~イケメン支配人に恋して~
「いった~……」
いきなりなに……。
ぶつけた腰をさすりながら体を起こすと、目の前には先ほどのお客さんの顔。気づけばその人は、またがる形で私の上に乗っている。
こ、これは……なんというか、危険な状態?
「ぎゃっ……ぎゃー!なにするんですかっ……離してください!!」
「いいじゃねーか、少しくらいサービスしろよ」
「こっこれは勤務範囲外ですー!!」
バタバタと暴れるものの、痛いくらいの力で床に私の腕を押し付ける太い腕はビクともしない。
「やだっ、離して!離してー!!」
「うるせー女だな……静かにしろ!!」
そして右手で私の両腕を抑え、左手で私の口を塞ぐ。
声が出ない、腕も動かせない、どうすればいいんだろう。
真っ赤な顔、臭うアルコールの匂い、「はぁ、はぁ、」と荒くなる息。それらに感じるのは恐怖。
「そうだ、大人しくしてろよ……抵抗すれば『この店のサービスは最低だ』ってネットに書き込むからな」
「なっ……!」
「そしたら客足引くだろうなぁ、ネットの力はすごいぞ?こんな小さい旅館一発だ」
それは、まさしく先ほど八木さんが言っていたこと。
『もし揉め事が起きたりしたらそれこそここをダメにしちゃうかもしれない』
私が今ここで抵抗したら旅館に影響が出るかもしれない。千冬さんや、八木さんたちの頑張りをムダにしてしまうかもしれない。
そう思ったら、声をあげることもそれ以上抵抗することも出来ず、されるがままに引っ張られる着物の襟から胸元が露わになる。