恋宿~イケメン支配人に恋して~
「先代から今まで、築いてきたものとそれを知る人との関係は揺らぎません。通ってくださる方々がいる限り、うちは潰れません。それが、『信頼』というものです」
迷いもなく、まっすぐに堂々と言い切る言葉。それはきっと、確かな事実だから。
そんな些細なことでは揺らがない信頼があると、努力はムダにならないと、堂々と言えるほどに彼が懸命にこの仕事をしているという証。
そんな千冬さんの態度に、お客さんはぐっと押し黙る。
「……では、信頼がいかに大事か試してみましょうか?」
「へ?」
「廊下につけてある防犯カメラに映ったものをそちらの社長様にお見せして、判断を仰ぎます。お客様に信頼が在るのでしたら、『なにかの間違いだ』と庇ってくださるはずですよね?」
そういえば、廊下には防犯カメラがついていたことを言われてようやく思い出す。
恐らくそこに映っているのは、部屋に送り届けた私を、このお客さんが引きずりこむまでの一部始終。
憶測だけれど、この人にはそれを『間違いだ』と言えるほどの信頼はないのだろう。
それを証拠づけるように、真っ赤だった顔がみるみるうちに真っ青になっていく。
その顔を見て千冬さんは満足したのだろう。にやりと意地の悪そうな笑顔を見せ、「行くぞ」と私の肩を抱き歩き出した。