恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……つまり、これまでよくあることではあったと」
「……は、はい……」
その後宴会を終えた広間で、片付けの前にと集められた仲居の皆は千冬さんの問いかけに大人しく答える。
全員が千冬さんに内緒にしていたこと、しかも『お客さんからセクハラを受けていた』、ということが知られてしまった。
それだけに皆の顔は気まずそうで、一方で千冬さんの顔は渋く苦い。
「ったく、そういうことは黙ってないですぐ言え。どうせ俺のことだからお客様を殴りかねないとでも思ったんだろ」
「うっ……すみません」
「俺だってもう30だぞ。多少のトラブルくらい口頭で対処出来る」
鼻でふん、と誇らしげに言う彼にほんの少し空気が和らいだようで、皆は小さく笑みをこぼす。
「皆の気持ちは嬉しい。だが俺は従業員にそんな思いをさせるために、ここをやってるわけじゃない」
それは先ほど私に伝えたことと同じ言葉。仲居全員にも伝えたい気持ち。
「ただ、そんなことを微塵も気付けなくて悪かった。今度から宴会場には男の従業員を配置するし、何かあれば必ず報告すること」
「はい」
「以上」と千冬さんが話を終えると、脱力した皆はどこか安心した様子だ。
八木さんだって他の皆だってやっぱりいやで、悩んでいたのだろう。そんな皆にとっても、千冬さんのその一言は大きい。