恋宿~イケメン支配人に恋して~
「支配人、吉村様がいらっしゃいました」
フロントの奥では、先程の仲居さんがなにやら声をかけている。
『支配人』……ってことは、一番偉い人だよね?そんな人をわざわざ呼ばなくても、といかにも旅館の支配人、といったような恰幅のいいおじさんを想像しながら思う。
「吉村様ですね。いらっしゃいませ、ようこそ新藤屋へ」
ところが、その言葉と共にフロントの奥からこちらへと姿を現したのは、想像とはまるで真逆。
黒いスーツに青色のネクタイをした、黒髪の男性。すらりとした体型に、180センチ近くあるだろう身長をした彼は、恐らく20代後半から30代前半とまだ若そうだ。
落ち着いた瞳とすっと通った鼻筋と薄い唇。それらがバランスよく並ぶ面長な顔は、かっこよく色っぽい。
い、イケメンー!!!
そう、思わず心の中で叫んでしまうくらい。
「支配人の芦屋と申します。この度は長期のご宿泊予約ありがとうございます」
「い、いえ。こちらこそ急に……すみません」
「いいえ、お気になさらずに。一ヶ月間、吉村様が快適にお過ごしいただけるよう我々も全力を尽くさせていただきます。それではお部屋のほうにご案内致しますね」
にこりと柔らかな笑顔で、彼は私を連れ館内を歩き出した。
若く見えてもさすが支配人。物腰柔らかいし、愛想もいい。こんな人もいるのだと、ついほれぼれとしてしまう。
外観の雰囲気そのままに、レトロな空気の漂う館内。少し古びた床を、ミシ、と微かに音をたてて歩く。