恋宿~イケメン支配人に恋して~
駅前から旅館まで、この街全体を繋ぐ循環バスに乗り、駅方面へ向かって10分ほど揺られ山をひとつ越えると着く伊香保の温泉街。
小さな石の階段が上に向かってずらりと伸び、それを挟む形でお土産屋や飲食店、遊技場などの商店が軒を連ねている。
「わ……すごい」
ネットやチラシで多少下見はしたけれど、予想以上のその迫力についまじまじと見上げてしまう。
「これが伊香保名物の石段街だ」
「石段街……」
「400年は前からあるこの街のシンボルみたいなものでな。ここ何年かで補修もされて今の形になった」
見れば確かに、石段を写真に収める人やにこにこと楽しそうに登っている観光客らしい人々がいる。
「ちなみに石段は365段あるんだが、どうしてか分かるか?」
「え?えーと……なんとなく?」
「バカ。そんなわけあるか」
全く分からずきょとんとする私に、千冬さんは呆れたように言う。
「『温泉街が365日にぎわってほしい』っていう、この街の人たちの繁栄の願いを込めているんだと」
「願いを……」
見上げると店頭に立つ街の人々は、若者から年配までにこやかな笑顔でわいわいとお客さんに声をかけている。
新藤屋で私たちが働いているのと同じように、この街の人たちも頑張って働いているんだ。
皆の願いを込めた、この石段。
そう思うと、なんだか親近感が沸いて、私もしっかりと1段1段を登り出す。