恋宿~イケメン支配人に恋して~
「おっ、すごいじゃん!この景品撃ち落とすの難しいって皆言うのに」
「え?どれですか?」
店主がそう千冬さんに手渡したのは、確かに撃ち落とすのが難しそうな小さな景品……決して可愛いとは言い難い顔をした、こけしのストラップだった。
「これはまた……」
「取れても嬉しくないブサイクなこけしだな。ん?でも理子、お前に似てる気が……」
「しませんから!失礼ですから!」
「まぁそう言わずに貰っておけ」
絶対自分がいらないだけじゃんか!
千冬さんはしれっと言いながら、私の持つ大きめのトートバッグの中に無理矢理ストラップを突っ込んだ。
「あー!ちょっと!突っ込まないでくださいよ!」
「記念だ記念。初伊香保で初射的記念」
「なんですかそれ!」
くそ、結構奥に突っ込んだから見失った……!あとで取り出して、千冬さんのスーツのポケットに忍ばせておいてやる。
不満げな顔をして見せた私に、彼は笑ってなだめるように頭を撫でた。
「ま、よく出来ましたってところかな」
「っ~……」
けどこの笑顔に弱い私もいて、その表情を見る度に心がぎゅううっと掴まれる。
あぁもう、なんでそんな、優しい笑顔見せたりして、頭撫でたりして。いちいちドキドキさせるんだか。
こうして一緒にいると、支配人と仲居って立場を忘れて、まるでデートしてるみたいだとか勘違いしてしまう。
ただのガイド。ただの観光。そう分かっているのに、嬉しくてつい笑顔がこぼれてしまうよ。