恋宿~イケメン支配人に恋して~
「っ……はぁっ、はぁ……きっつい……」
ぜえぜえと息をあげながら、のぼる石段。
靴、スニーカーで来て正解だった……ヒールで来ていたら途中で脱いでいたかも。でも明日は筋肉痛決定だな……。
じんわりと背中に汗をかき出した頃、見えてきた石段の上。
「着いたぞ」
「ようやく……」
こんなところに何があるんだか……。
最後の一段をのぼりきり顔を上げると、そこにはひとつ神社があった。
「神、社……」
本殿の建物自体はあまり大きくはないものの、青々と茂る木々と静けさの中に建つその神社は貫禄があり、どっしりとした力強さを感じさせた。
「伊香保神社。石段の次に有名な観光地でな、子宝と縁結びのご利益があるんだ」
「へぇ……」
辺りを見渡せば、確かに女性や夫婦らしい人々が数名いる。かけてある沢山の絵馬も、ほとんどが女性の字だ。
「お前もせいぜい良縁を願っておくんだな。今度は浮気しない男と出会えるように」
「余計なお世話です。千冬さんこそ良縁願わないと旅館の跡継ぎが途絶えますよ」
「お前こそ余計なお世話だよ」
お互い嫌味を言い合いながら、近くにあるベンチへと腰を下ろす。
さぁ、と吹いた風に神社を囲む木々が緩やかに揺れた。