恋宿~イケメン支配人に恋して~
「こちらが吉村様のお部屋になります」
館内を少しぐるぐると歩いた後、辿り着いたのは4階にある403号室。
彼が開けてくれたドアから中へと入ると、一人で泊まるには広いと感じるほどの和室。畳の匂いがふわ、と漂い、部屋の真ん中には茶色いテーブルが置かれている。
「わ……いい部屋、」
「ありがとうございます、よろしければそこの障子も開けてみてください」
「障子?」
部屋へあがり、言われるがままに目の前の障子を開ける。するとそこには縦にも横にも大きな窓があり、一面に広がるのは山や小さな川などの自然の景色。
「すごい……綺麗」
「東京の方には新鮮でしょう?田舎の旅館だと笑われてしまうかもしれませんが、これも当館自慢のひとつなんです」
「え?どうして私のこと……」
「予約の際、ご住所を拝見させて頂きました」
今日やって来る客なんて沢山いるだろう。なのにこうして、自分一人のことも見てくれているんだ。
こういうのを『おもてなし』っていうのかな。
ちら、と見ると背後では彼がにこりと笑顔を見せた。
「なにかございましたらいつでも、従業員へお申し付けください。では、失礼致します」
「あ、あの」
「はい?」
部屋を出ようとした彼を、つい呼び止める。
「……一ヶ月、よろしくお願いします」
笑顔のひとつも見せられず、可愛げのないたった一言。けれどそれは、芽生えた小さな信頼。
小さくぺこ、と頭を下げた私に、芦屋さんは優しく微笑むと深く頭を下げた。
「どうぞ、ごゆっくり」