恋宿~イケメン支配人に恋して~



「っ~……ぎゃー!!!」

「いてっ!」



そして悲鳴とともに、枕を思い切り俺の顔面に投げ、バァンッ!とドアを閉めた。



「あの野郎……」



旅館の枕を雑に扱うなよ……ていうか、せめてもう少し可愛く『きゃー』とか言えないものか。『ぎゃー』って。色気なさすぎるだろ。



呆れながら投げつけられた枕を手にドアの前に立っていると、数分後には小さくドアが開く。

ようやく来たか、と見れば隙間からこちらを睨む丸い目。



「なんだよ、さっさと出てこい」

「……見ましたね、私の着替え」

「どうせ肌襦袢だっただろうが。つーかそんな平らな体に興味ない」

「なっ!」



先ほどのことを気にしているのだろうが、言った通り俺が見たのは肌襦袢姿。つまり、一枚は着ている状態ということ。

そんな姿を見て欲情するほど、俺も元気じゃない。……もっと色気のある女なら、わからないが。



鼻で笑って、枕を理子に渡し歩き出す俺に、その足は慌てて後をついてくる。



「セクハラ。変態セクハラ支配人」

「うるせえ。逆セクハラで訴えたら俺が勝てるぞ」

「勝てませんーボロ負けですー」



口を尖らせ言うところがまた、憎たらしくて可愛げない。けれど、最初の頃より大分豊かになってきたその表情は、まぁ悪くはないと思う。



「ほら、遅れた分必死に働け」

「はいはい、分かってますよ」

「はいは一回」

「はーい」



ってまた可愛くない言い方を……。

睨む俺を気にすることもなく、やってきた広間で理子はすぐさま仕事にとりかかった。




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