恋宿~イケメン支配人に恋して~
「否定しないってことは……そうなんでしょ?ふふ、理子ちゃん不器用で可愛いものねぇ~。千冬くんも男になっちゃうわよねぇ~」
「なりませんから。あれもただの偶然で……恋人とか、いりませんから」
『いらない』そうしっかりと言い切った言葉に、その顔の笑顔はからかうようなものから少し寂しげなものへと変わる。
「……まだ、トラウマなの?」
「……」
トラウマ、確かにその言葉が一番当てはまるかもしれない。
今だこんなにも、頭の中に残る景色。
『……ね、』
俯く、彼女の涙。
そんな記憶を断ち切るようにバシッと叩かれた肩に、はっと我に返る。
「若いんだから、まだ諦めちゃダメよ。顔さえ上げれば、希望はそこらじゅうにいくらでもあるんだから」
それは、箕輪さんの力強い手のひら。じんじんとする背中から感じるその心強さに、つい笑った。
「……ありがとう、ございます」
「さーて!今日も1日頑張るわよ!支配人!」
元気な声に誘われるように見上げれば、窓の外には青い空。
今年は短かかった梅雨が、もうあけようとしている。
もうすぐ、夏がやってくる。