恋宿~イケメン支配人に恋して~
けれど本当の苦労はそこからで、経営というものは自分が思っていた以上に難しく、きついものなのだと知る。
やることも多い、従業員同士で揉めることもある。
けれど以前からの従業員にも支えられ、働くうちに日々沢山の人の笑顔に触れ、『ありがとう』と言われるたびに嬉しさややり甲斐を感じた。
そのうちふと気付く。ふたりが何のために日々頑張っていたのか。
誰かの思い出を彩るひとつになるため。その人の、笑顔のため。
それに気付けた頃にはもう30近くになっていて、この歳になってようやく知った。
求めていたやり甲斐は、逃げていたこの場所にあったこと。
知れば知るほど、自分は親不孝者だと何度も思った。
もっと早くに気付けていたら、反発せずに跡を継げていたら。今ある世界は違うものになっていただろうか。
両親という存在が当たり前すぎて、電話で交わした最後の会話すらも覚えてない。
ごめんな、ふたりとも。こんな息子で、ごめん。
そんな気持ちばかり、抱いていたけれど。
『見てます、ふたりとも』
あの小さな一言に、泣きたくなった俺より先に泣いた。彼女のその涙に、また少し泣きそうになったのは内緒だ。
そうか、見ているのか。こんな俺の姿も、見てくれているのか。
なら、もっと恥じない仕事をしよう。胸を張って、働こう。
心強さと愛しさを、握ったこの手に込めて。