恋宿~イケメン支配人に恋して~
静かな空気、あたたかな人。ゆっくりと過ごすのには、ちょうどいい場所。
それからはぼんやりとするだけで日が暮れて、夜を迎えた私はあっという間に食事を終え、お風呂にも入った。
「ふぅ……気持ちよかった」
湯上りのほかほかとした体を青い浴衣に包み歩く旅館内は、にぎやかな部屋もあるものの静かな部屋が多い。
オフシーズンだからお客さんも少ないのかな?
まぁそうだよね。普通の人は前のゴールデンウィークか後の夏休みに来るだろうし。そう思うと尚更この時期に来てよかったかも。
それにしても山の幸たっぷりで美味しかった夕飯も、彼・芦屋さんが言っていた通り絶景だったお風呂も、どちらも最高だったなぁ。
仲居さんもあれこれと気にかけて声をかけてくれたりするし、もてなされていると感じることにまた幸福感が満たされる。
癒される……こんなところで一ヶ月過ごせるなんて、幸せ……。
明日は街に出てみようかな。確か山をひとつ駅側に越えれば温泉街でにぎわっていたはず。
先日までの殺伐とした気持ちはどこへやら、心はとても穏やかだ。
あ、部屋に戻る前に飲み物買っていこう。
そう自分が手に持つミニトートから、お財布を取り出そうと中を探る。すると、目に入ったのは電源が切れたままのスマートフォン。
電源を入れればきっと、慎からの着信やメールがたまっているだろう。けれど、今更。なにかを話し合う気にもれない。
……そりゃあ、あんな光景見ちゃったらねぇ。
今だ頭に残る全裸の二人の姿を思い出し、ははっと呆れた笑いがこぼれた。