恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ふー……」
左手の腕時計が午後13時を指す頃。吐き出した煙草の煙は、青い空に溶けていく。
やっぱり煙草、うまい……。
昼間の空いた時間に、ひとりひっそりとやって来る別館の裏口。
人目にもつかず、換気の必要もないここでの喫煙タイムは俺にとっての貴重なひとときだ。
昔より煙草の本数はかなり減ったものの、やっぱりやめることは出来ないな……。
「……あれ」
「……あ」
すると背後からやって来たのは、休憩中なのであろう理子。その手には紅茶のペットボトルを持っている。
「なんだ、また俺の喫煙タイムを邪魔しに来たのか」
「別に。外の空気吸いに来ただけですけど」
立ったまま煙を吐き出す俺に、その顔はにこりともせず裏口の石段へと座った。
ボトルに口をつける横顔は、まぁ綺麗目な顔をしているとは思うけど、相変わらず愛想はない。
品もなく色気もなく、言葉も足らない。元彼氏が『愛情が分からない』と言いたくなるのも分かる。
「……」
その横顏を見つめながら、何気なしに隣へと腰掛ける。
すると、その目はなにかを見つけたようにとまり、途端に顔を青くさせた。
「ん?どうかしたか?」
「……かえる……」
「かえる?」
いきなり何を言うのかと同じ方向を見れば、そこには一匹の小さなカエル。すぐ近くに茂みがあるのだから、別に珍しいものではない。
けれど理子にとってはそうではないらしく、じっとこちらを見るカエル相手に体を固まらせたまま。