恋宿~イケメン支配人に恋して~
……どうも、調子がくるう。
ふてぶてしいと思ったら笑顔を見せたり、突然距離が近づいたり、強いと思ったら涙を見せたり。
掴みづらくて、変なやつ。だけどどうも放って置けなくて、その表情に時折愛しさを感じる自分も、いる。
小さくなる後ろ姿を見つめていると、スーツのジャケットの胸ポケットにある携帯がヴー、と鳴り出した。
「電話……?」
取り出した仕事用のスマートフォン、その画面には『着信・田中さん』の文字。
田中さん……先日足を骨折した、仲居頭だ。どうかしたのだろうか。
「はい、芦屋です」
『あ、田中です~お疲れ様~!』
通話ボタンを押して電話に出ると、受話器から聞こえてくるのは聞き慣れた明るい声。
「お疲れ様です。ケガの具合はどうですか?」
『それが予想より大分治りが良くて!来月頭から戻れそうです~!』
「来月……」
『今臨時でバイト使ってるって聞きましたよ!その子のためにも1日でも早く戻りますね!』
それだけ伝えて『じゃあまた!』と切れた電話に、俺はホーム画面に戻った携帯を見つめた。
そこに表示されたのは『6月24日』の文字。