恋宿~イケメン支配人に恋して~
12.旅の結末
握った手は熱く大きく、感じた愛しさ。
この手を包んでしまう長い指を、離したくないと思ったんだ。
「ありがとうございました」
「楽しかったわ、また来るわね」
「はい、ぜひお待ちしております」
今日もチェックアウトの時間を迎え、旅館のフロントには並んでお客さんを見送る、私たちの姿があった。
深く頭を下げ、お客さんの姿が見えなくなった頃にゆっくりと上げる。この動きも、大分慣れてきたと思う。
「理子ちゃん、随分姿勢綺麗になったね」
「え?本当ですか?」
「うん。お辞儀も最初の頃の小さいお辞儀と違って、深くて綺麗なものになったよ」
八木さんにも褒められ、つい顔がほころぶ。そんな私に周りの皆もふふと笑った。
「でも折角ここまでできるようになったのに、あとちょっとなんだもん、もったいないよねぇ」
そんななか、箕輪さんの一言にぴく、と動きが止まる。
「30日の朝まで仕事して、お昼に出るんだっけ?ギリギリまで大変だね~」
「あ……はい、そうです、ね」
「ん?どうかした?」
「いえ……べつに、」
言われてから思い出す。今日が、6月26日であること。
そう、1ヶ月間の仕事の終わりまであと4日と迫っていること。
「寂しくなっちゃうわね~。東京戻ったら仕事は?OLだっけ?」
「はい。1日からの復帰予定なので、帰ったらすぐ」
「ここに残って千冬くんのお嫁さんになっちゃえばいいのに!」
「いや、なりませんけど」
本当に寂しいと思ってくれているのか、からかいたいだけなのか。どちらともとれる言い方をする箕輪さんに冷ややかに返す。