恋宿~イケメン支配人に恋して~
「よし、着いたぞ」
「あの、一体どこに……」
わけも分からず下ろされた場所は、感触から察するに畳の上。
戸惑う私に彼はさっき縛ったネクタイをそっとほどく。
すると、ぱぁっと開けた視界に広がるのはいつも宴会の時に使っている広間に、テーブルの上にずらりと並んだご馳走や飲み物。
壁にはキラキラとしたモールが飾られ、大きく『理子ちゃんおつかれさま』と書かれた紙が掲げられている。
「え……?」
これは、一体……?
呆然としていると、周りを囲んでいた皆からはパンパンッとクラッカーが放たれた。
「せーのっ……理子ちゃん、1ヶ月お疲れ様ー!!」
そして八木さんの合図で一斉にかけられた言葉と沢山の拍手。
「え?これって……え?」
「今日は年に1度の飲み会、プラスお前の送迎会ってわけ」
「送迎会……?」
送迎会……なんて、たった1ヶ月働いただけなのに。それに、大して役にも立ってない。ようやく仕事に慣れ始めたところ。
にも関わらずそんな私に、八木さんや箕輪さん、仲居の皆に板前のお兄さんたち、フロントマンの大渕さんに清掃係のおばさんたち……皆が「お疲れ様」と声をかけてくれる。
「八木ちゃんがね、『理子ちゃんが折角1ヶ月頑張ったからなにかプレゼントをあげたい』って提案してくれてね。なら皆でサプライズパーティにしようって」
「八木さん……」
「私も理子ちゃんのこと妹みたいに感じてたから、なにかしてあげたくて。びっくりさせてごめんね」
ふふ、といつものような笑顔を見せる八木さんに、こみ上げるのは感動する気持ち。
八木さんには迷惑ばかりかけていたのに、『妹みたい』、なんて言ってくれる。やさしい、あたたかい。うれしい。
それらの気持ちに思わず泣きそうになるのをこらえ目の前の八木さんに抱きつくと、細い体の八木さんは私をぎゅっと抱きしめ返してくれた。
さっきまで、寂しさでいっぱいだったこころ。
だけど、今はこんなにもあたたかい。寂しさよりも、大きな嬉しさに包まれる。