恋宿~イケメン支配人に恋して~
「えーと、自販機はっと……」
浴室にもあった気がするけど、戻るのも面倒だし……きっと他のどこかにもあるよね。
自販機を探し求め、少し複雑な形の館内をキョロキョロと見回しながら歩く。けれど、歩けば歩くほど道は複雑となり……。
「……あれ」
気付けば、何やらよく分からない通路へと入り込んでしまった。
これはおとなしく浴室に向かったほうが賢かったかも……。
自分が今どこのフロアにいるのかすらもわからないけれど、部屋が並ぶにも関わらずさっぱりひと気のない通路であることから、ここに来てしまったのは失敗だったことだけは分かる。
仕方ない、とりあえず館内図を探して浴室に戻ることから始めよう。溜息をひとつついて歩き出そうとした、その時。
「……なんです、ずっと」
「ん……?」
遠くから聞こえてきた声に、誰かいるのだろうかと廊下の角から声のする方向を覗き込む。
するとそこにあったのは、淡い緑色の着物の仲居さんと、スーツを着た背の高い後ろ姿。
あれは……昼間私がきた時に出迎えてくれた仲居さん。それと芦屋さん、だ。
あ、そうだ。あのふたりに聞けばすぐ案内してもらえるよね。