恋宿~イケメン支配人に恋して~
「理子ちゃーん、千冬さんとばっかいないでたまには俺とも飲もうよ~」
「あ、はい」
すると、続いて隣に座ったのは板前のお兄さん……島崎さん。以前大樹くんの件で見事な包丁遣いを見せてくれた、黒髪短髪のスポーツマンタイプの男性だ。
いつもの調理服からTシャツ姿になるとさらに分かるがっちりとした体の彼は、笑顔でビールが入った私のグラスと日本酒が入った自分のグラスを合わせた。
「大樹くんの時はお世話になりました」
「どういたしまして。理子ちゃん東京の子なんだって?じゃあもうなかなか会えないよな~。折角旅館が華やいだと思ったのに残念」
「あら島崎くん失礼しちゃう!花ならここに沢山咲いてるじゃない!」
「あはは、箕輪さんたちは高嶺の花だからな~」
彼が笑って言うと、箕輪さんは「あらやだ」と嬉しそうに照れる。
う、上手いなぁ……!
こうも柔軟性のある言葉がポンと出てくるところに、感心すると同時に見習いたい気さえする。
「折角だしこっち残ればいいのに。あ、んじゃ俺と結婚する?」
「え!?いや、あの」
「コラ島崎、なーにどさくさに口説いてんだ」
さりげなく出た『結婚』という言葉に驚く私に、千冬さんはまだ肩を抱いたまま島崎さんと私を引き離す。
「冗談冗談。千冬さん顔怖いな~」
「ダメよ島崎くん。理子ちゃんは千冬くんと結婚するんだから~」
「え!?」
「えっ、マジ?ふたりってそういう仲?」
箕輪さん、またややこしくなるような冗談を……!
わかっていてもつい顔を赤くしてしまうと、笑っていた島崎さんも驚きを見せる。
「え?そうだったのか……?」
「違いますから。千冬さんまで騙されないでください」
やはり酔っ払いなのだろう。自分のことなのに島崎さん同様驚く彼にも鋭いツッコミをいれた。