恋宿~イケメン支配人に恋して~
「以来、千冬さんは外の人には気を許さないし、恋も結婚も言葉にすらも出さない。いつだったか酔っ払った時に『彼女ひとりすら支えられない人間が家庭を持てるわけない』って、諦めたように言ってた」
好きな人も支えられない人間なのだと思い知るのは、どれほど無力で悲しくて、寂しいだろう。
きっと、悲しくて、痛くて、そんな自分が嫌いで、全てを投げ出して目を背ければラクになる気がする。
「だから、理子ちゃんとも一線引いたんじゃないのかな。……好きだから、突き放したんだよ」
いずれ帰ってしまうから、ここから去ってしまうから、傷つく前に遠ざけた。
あんな言い方をされれば、私が怒って帰るとでも思ったんだろう。帰って、そのうち忘れるだろうって。
こっちの気持ちも、知らないで。
「だとしたら、理子ちゃんに出来ることは?」
私に出来ること。彼のために、自分のために、どう動くべきか。
だけど、全てただの憶測にすぎなかったら?
もし彼が本当に遊びで、もう一度突き離されてしまったら?
もし好意を持ってくれているとして、それでも『帰れ』と跳ね除けられたら?
もし、もしも。可能性のひとつにすぎないそれらが怖くて、追いすがることも、出来ない。