恋宿~イケメン支配人に恋して~
特別やりたい仕事もなりたいものもなかった私は、無難な範囲で就職活動をして、朝出勤して夕方帰る・土日祝日休み・給料は高くはないけれど残業も少ない、まさしく無難なこの会社に就職した。
働かなきゃお金がないから仕事はするけど……こうも毎日、なにが楽しいのだろう。
早く帰って慎とゆっくり過ごしたい……。
凝った首をコキコキと鳴らしながら頭に思い浮かべるのは、付き合って一年、半同棲中の彼氏・富坂慎の姿。
慎、今日は代休で休みって言っていたっけ。たまには外食したいなー。
外食、といっても慎の家の近所のファミレスを想像して、またパソコンに向き直す。
「ちょっと!吉村さん!?」
すると、突然怒鳴るように名前を呼んだのは40代の先輩女性社員。
……げ、お局。
なにかあればすぐヒステリックに怒鳴るその先輩に、『来た』と思わず顔が嫌そうに歪んでしまう。
そんな私の表情の変化に気付くこともなく、今日も先輩は目をつりあげた。
「この書類間違えてる!この前も同じこと言ったでしょ!?いちいち言わせないでよ!」
「あー、はい、すみません」
「ちゃんと考えて理解してる!?適当にやるから間違えるのよ!もっとちゃんとやりなさい!」
「はーい……」
ギャンギャンガミガミ、あー……うるさい。
思わず耳を塞ぎたくなるようなその声に、適当に返事をして流す。そんな私の態度に、「聞いてるの!?」と更に荒げられる声。
うるさいな、普通に落ち着いて言ってくれればわかるのに。わーわー騒ぐから余計理解しづらいんだよ。