恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ん?吉村どうした?」
「部長、すみません」
そしてそのまま部長のデスクに出した用紙、そこには『退職届』の文字。
「え!?退職届!?ど、どうしたいきなり!」
「すみません、辞めます。荷物はあとで必ず取りに来ます。お世話になりました」
「は!?なんで……」
それだけを言うと、驚く部長の声も無視してデスクに置いてあったバッグを手にスタスタと早足で歩き出した。
本来なら1ヶ月前に出さなきゃいけない退職届を、いきなり出して今日辞めます、なんて身勝手だと思う。
『これだから若い子は』って言われても仕方ない。
だけどそれでも、今の私に見えるものはひとつしかないから。
「ちょっと吉村さん!いきなり辞めるってどういうこと!?」
会社を出るべく廊下を歩いていると、早速部長から聞いたのだろう先輩はひどく驚いた様子で私を追いかけてきた。
「……別に先輩のせいとかそういうわけじゃないです。寧ろ、今まで迷惑かけてすみませんでした」
「え……?」
そんな先輩に、私は足を止めて向き合うと、深く頭を下げる。
「大変お世話になりました、ダメな後輩ですみません。……やりたいことを見つけたので、今を逃して後悔する前に、進みます」
しっかりと言い切って、こぼした笑顔。そしてまたスタスタとその場を歩き出す足。
やりたいことがある、居たい場所がある。伝えたい、気持ちがある。
だから、行くんだ。不安も恐れも、全て抱えて。